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  • 災約聖書 | 楽園都市管理室

    < Back 行き着く先は神聖なる喜劇か、或いは災厄による悲劇か? 天使に意思などない 天使に情などない 天使は神にはなり得ない 彼女は選ばれた 聖なる神の御使いに 彼の魂宿る器に 運命に従う神の玩具に 救世主は救済者ではない 全ては尊き我が主の愛の為に 全ては完全で唯一なる創造主の御心のままに 最低で最凶である唯一無二の災厄の望むままに 〈悲劇とするか、喜劇とするか。それは君次第だよ、ノア〉-??? 3L/流血/欠損/異形/差別/宗教表現 有 Story 『ヴァルミナ旧教』  それはこの世界で一番の信者数を誇る宗教だ。それは勿論のあ達の住む中央大司教区も例外ではなく、聳え立つ大聖堂は純白と金色で統一されており、咲き誇る一面の青薔薇と美麗な噴水、そして十字架はヴァルミナ旧教の規模の大きさを象徴するには十分過ぎる壮大さだった。 しかし一見美しいその宗教はどうやら、一部の間で密かに“殺人宗教”と噂されているらしい。  行方不明の親友を探し、噂を頼りに大聖堂に乗り込んだのあは『祓魔棟』と書かれた“存在しない階”に迷い込む。 ──そこには攫われ、囚われた悪魔や異教徒達が非人道的な実験を受けたり無慈悲に惨殺されたりした痕跡が、血みどろで絶望に満ちたあまりにも現実離れした光景が広がっていた。 第三位【神】ヴァルノエル 災約聖書 サイコ/ホラー/サスペンス/スプラッター 序章/A,B,C,D,E 本章/A,B,C,D,E 他『最終章』S

  • episode:02 旧棟 | 楽園都市管理室

    戻る episode:02 旧棟  さて、無事に電気が機能したことでようやく姿を現した、質素な鉄扉のドアノブに手をかけた。内側からも鍵が必要というそれなりに面倒な構造は、それだけで正直脱出を諦めさせるようなものだが、覚悟を決めたかのようにのあは手首を左右に捻った。  が、それは無機質な音を立てるばかりで、二度も三度も奇跡は続くことがないことを無慈悲に告げていた。いくら立て付けが悪いとはいえ、一般市民の力では到底こじ開けることは不可能だと言えるだろう。はぁー……と、安堵感から来るものではなさそうな深い溜息が、のあの口から溢れた。 「救世主様ぐらい、とか言わないけど、はぁ。せめてもう一回、いや二、三回くらい、奇跡とか起こしてくれたって」  そんな贅沢を言い終わる前に、背後のダンボールが音を立てて勢いよく崩れた。 「う、ぇ!?」  ドサドサドサ、と激しい音を立て、辺りに数年前の日付が記された貼り紙や書類、それから非関係者には何が何だかイマイチよく分からない小物等が散乱した。恐らく仕分けされてあったのであろうそれらは、きっと片付け作業をするのだろう見知らぬ誰かを哀れみたくなる程に、種種雑多に散らばっていた。 「うわうわうわ……え? これ私のせい? か、神様……いや触ってないし……」  特に誰かがいる訳でもない、神に対してだとしたってそんな言い訳が通じる訳もない。ただ無意味な言い訳を繰り返し、のあはその山に近付いた。時期や素材によって色とりどりの白と、その上に陳列する黒。殆どがその二色で完結する無彩色。放置するのも申し訳ないので少しくらいは纏めておこうと手を伸ばした先に、キラ、と光を反射する何かを見付けた。 「……、……鍵?」 それは、例えるのならば子供向けのオモチャにでも付いていそうな程に──さすがにそこまでセキュリティを心配したくなる程単純な形状では無いのだが、それに近い──簡素で、見失ったら最後、見付けるのにかなりの苦戦を強いられそうな程に小さな、銀色の鍵。興味に負けたのあは片付けるつもりだった書類達を適当にダンボールの中に詰めると、埃をかぶったそれを拾い上げた。 「いやいや、流石にそんな都合のいいこと」 鍵穴に差し込んだ。 ──ガチャリ。 「…………あるんだ……」  事実は小説よりも奇なり、とはよく言ったものだろう。あまりにも呆気なく、その重たい鉄の扉は前方に続く白い空間を目前に晒した。一際目を引く、緑色の鈍い光を放つ数値が表示された謎の機械。そこから排出されているのであろう生温い風が一瞬頬を撫で、のあの新雪のように濁りのない白銀の髪を揺らした。無機質で小さなその空間は、所々張り巡らされた太さの様々な鉄パイプと、地鳴りのような低い機械音が異質な空気感を醸し出していた。正面には先程出てきた部屋のものと同じ鉄の扉が、まるでプラスチックで出来た薄い板かのように折れ曲がって佇んでいる。構造が同じであれば通路側に開く硬いはずのそれは、正反対の方向に無慈悲に叩き付けられていた。そして向かって左方面には、簡素な木造の扉が構えている。 「は、ほ、ほんとにどこだよ、ここ……!」  鼻につくようなこれは、病院を彷彿とさせるような、薬品と消毒液の香りだ。その中にほんの少し鉄の臭いが混じりあった、独特の空気だった。一歩、また一歩と、普段よりも倍以上遅いペースで、のあは足を前に進めた。ただでさえ薄暗い部屋の切れかけの蛍光灯が時折点滅し、どこかから水滴の滴る音が響いていた。これは、まるで自他ともに認めるほど大のゲーム好きであるのあが唯一苦手とする、FPSやアクションゲームとは違った緊迫感と恐怖感が押し寄せる、あのゲーム。 「あれえ、こ〜んに〜ちはぁ〜!」 「ひ、ッ───!!!!?」  背後に唐突に感じた衝撃に、声にならない悲鳴をあげた。まるで、のあが心底大嫌いな、ホラーゲームのようだった。  恐怖心と多少の怒りから、睨みつけるように振り向けば、170cmは軽く超えていそうな黒髪の男がのあの背後にくっ付いている。その男はニコリと笑うと、体制を整えてひらひらと笑顔で手を振った。 「はじめましてえ、君も迷子〜?僕もねぇ、迷子なんだよねぇ……」 「は、はあ……そうですか……ではお互い頑張って出口を探しましょうさような」  人であったことへの安堵感と、人であったことでの恐怖感。見ず知らずの他人に急に背後から抱きつくような変な男からは、逃げるが吉であろうことは明白。そう背を向けた矢先、思ったよりも強い力で腕を握られて引き止められた。恐らく不審者に遭遇した時のそれと同じ冷や汗が背を伝う暇もなく、彼が不満げに口を開く。 「待ってよお、一人じゃ寂しいじゃん。僕怪しいひとじゃないよ?僕ねぇ、広瀬 秀(ひろせ しゅう)!秀って呼んで!星光大学(せいこうだいがく)の二年だよぉ」 「うっそでしょ大学同じなの!?」 「え?そーなの?わぁーい」  果たして何が「わぁーい」なものかと、驚きのあまり余計な個人情報を与えてしまったのあが若干後悔していることなど知る由もなく、まるで名前のイメージからかけ離れた性格の彼は楽しそうに次の質問を浴びせてきた。 「君は〜?君の名前!あわかった当てたげようか、えとね、えとねー、ニャ」 「あんたがあらゆる方面から怒られそうな名を発しようとしてることは分かります」 「あれー?」  この前完結した某ライトノベルの主人公の、恐らく目と髪の色が同系色ということ以外に特に共通点は無いキャラクターの名でも出そうとしたのだろう彼は、相変わらずへにゃへにゃとした気の抜けた笑顔で上半身ごと首を傾げた。 「てか、……どこから……」 「そこの壊れてる部屋!起きたら閉じ込められててさぁ〜、電池とか爆発させたら扉開くかな?と思ってやってみたんだけど。巻き込まれてさっきまで気失ってたんだよねぇ……」  その時怪我しちゃってさあ、と頬に貼った絆創膏の角を弄り、しょも……としてみせる秀。そんな姿に半ば呆れ顔ではあるが、しかし緊張と恐怖に支配されていたのあの表情は、一変してほんの少し頬が緩んでいた。とはいえ、その理由が“別の恐怖が歩いてやってきたから”とすれば、果たしてどちらの方が良かったのか定かではないが。  秀の背後。そこには、先程と変わらない光景。 「……、…………?」 「ねえ。名前教えてよ」  何かに違和感を感じたのあの思考が、秀の何気ない言葉で現実に引き戻された。 「こんなとこ早く出たいもん、なんもなくてつまんない! 一人より二人の方が確率高いでしょー? だから協力しよー?」  仲間の名前も呼べないと不便じゃん、と、膨れる秀の初対面というには近過ぎる距離感に若干引きつった笑顔を浮かべたのあが自己紹介をすると、秀はパァッと嬉しそうに顔を綻ばせて笑った。 「のあちゃん! いい名前だねえ、よろしくね!」 れっつ探検だー、などとはしゃぐ、状況を分かっているのかいないのか、能天気な秀。手を引かれてのあも木造扉をくぐった。後ろを振り返っても、何の変哲もない、何度見ても変わることの無い景色だ。  扉を抜けた先に広がっていたのは、コンクリート造りの施設だった。機械的だが年季を感じる造りで、ぱっと見ただけでもそこまで複雑な構造には見えない。正面には南京錠のかけられた鉄製の扉が佇んでいた。その左隣には、恐らくかなり広いのであろう部屋があり、この空間の中では特に際立って近未来的なカード認証式の扉が構えていた。向かって右側の壁は浅いV字型にくぼんで小さな空間を作り出しており、そこには十字架にかかる救世主の像が建てられている。隣の部屋は、のあ達が先程出てきたのと同様の木造の扉だった。 「わぁ〜……あはぁ、すっごいねえ!たのしくなってきたー!」 「クッソ、呑気な……ああ、もう!」  思わず出た本音を飲み込んだのあが、更に辺りを見渡す。向かって左側、二つ隣には鉄扉の小さな部屋がある。そしてさらに奥、通路を挟んで向こう側には白く簡素な、例えるとすれば玄関のような扉が見えた。ここまでたくさんの扉こそ見つけたものの、しかし恐らく出口らしきものは無い。それどころか、窓すら少なくとも見える範囲には存在しない閉鎖的な空間のようだ。相変わらず地鳴りのように響き続ける小さな低音、点滅する蛍光灯。再度足が竦むようなのあの手を、秀が引いた。 「だいじょーぶ、僕が守ってあげる。一緒に外でよーね、のあちゃん!」  子供のように無邪気な顔で、秀がそう笑った。どこか自信ありげな表情に思わず頬が緩むのを隠すように、彼に背を向け歩き始める。 「……頼りないなあ」  その呟きに、秀はのあを小走りで追いかけて「えー、ひどーい!」と大袈裟な不満を漏らした。 ‪  部屋を出て道なりに進むと、鉄の扉の少し手前にのあの背より少し低い、大きな葉の観葉植物──の、造花──と、中身の殆ど入っていないゴミ箱があった。なんとはなしにその中を見てみると、1番上に無造作に捨てられた何かの走り書きのようなものが見える。 「……? なにこれ」 「えぇ〜……僕ゴミ箱漁るのどうかと思う……」  のあは頭上から降る批判を無視してそれを拾い上げ、丸まったそれを適当に広げた。それは、油性ペンで乱雑に書かれた誰かのメモだった。 「……《至高の天空に咲く純潔の象徴》?」 「しろばら!!」 「早々に回答ありがとうございます」  いよいよホラゲーみを増してきた謎解き要素は、ある意味一切空気を読まない秀の発言でいとも簡単に回答を得ることが出来た。とはいえその『白薔薇』が果たして何を意味するものなのかまでは謎のままだ。ひとまず記憶の片隅にだけ置いて捨ててしまおうとした所で、秀が何かに気が付いたらしく「あれ?」と声を出した。 「ねぇねぇ〜、裏になんか書いてあるよ?」 「裏?」  秀に言われるままに紙をひっくり返した。形状様々な四角と四角が組み合わさって整列している。線は歪でインクは多少滲んでいるものの、このフロアの地図であることは明確だった。部屋の名称を書いた文字の筆跡から見るに、どうやら裏のメモと同一人物が描いたようだ。 「やったぁ〜! 地図だ地図! どっかに出口あるかもねえ!」 「や、パッと見出口らしきものは無い……けど。このスペース、階段とかあったりしないですかね」  このフロアの窓の無さ具合を見るに恐らく地下であるのだろう、そう予想をしたのあが、まず階段を探した。そんなのあを暫く無言で見つめていた秀が、「のあちゃんってさ」と口を開く。 「警察官か探偵さんかなにか?」 「は? いや、ただの大学生ですけど…」 「うん、だよねえ。そのはずだよね」 「……そのはず?」  そのはずだよね。その発言に、のあは小さく一歩後ずさる。のあの不信感を読み取ったのか、少しの沈黙を挟んで秀が「だってさっき同じ大学って言ってたじゃん……」と軽く呆れたような表情を見せた。 「推理上手だなーって思ったから言っただけだよ。用心深いのは良い事だけどさあ、もうちょっとは信用してよぉ〜……」  そう肩を落とす秀に、のあは「言うて私達初対面ですからね」と返す。会ってから一時間、それどころか三十分すらも経っていない、且つ行動の突発的でおかしな男を信じろ、という方が無理な話だろう。秀は、「え?」と──言うよりは「んぇ?」の方が正しいかもしれないが──気の抜けた声を出して、そのあとにようやく気付いたかのように小さく「ああ、そっかあ」と笑った。 「そうだったねぇ! いいよやっぱ、信用しなくて!」 「そんなことある??」  困惑を隠しきれないのあと対照的に、楽しそうに笑う秀。 「だって、のあちゃんも女の子だもんね。年上の男なんて怖いでしょ? ごめんねえ」    何気なく発されたその言葉は、気遣う言葉としてはなんの違和感も感じない言葉だった。普段ののあなら、何も気にはしなかっただろう。しかし、その情報を、のあは秀に与えていなかったはずだった。 「…………私、いつ一年生っつったっけ?」 「……。……ぜんぶ知ってるよ? 調べたもん」  一瞬の沈黙が途方もなく長い時間に感じるほど、のあに押し寄せる不信感と、危機感。変わらない秀の笑顔は、この上なく不気味に感じられた。  と、その時、そんな静寂を破るかのように秀が「ふ、あっはは!」と心底面白そうに吹き出す。感情が追い付かず沈黙するのあと対照的に暫く笑った秀は、「ああ面白い、うそうそ!! ごめんね? 冗談だよ」と目尻に浮かぶ涙を拭った。 「僕、浪人してるんだよねえ。だから年下かなあって思ってさ。ええと、そんなに怖がらせちゃうと思わなくて、……その、……余計警戒させちゃったかな……ごめんなさい……」 「ちょっとしたドッキリみたいなつもりだったんだよ」としょんぼりして見せる秀に、それでものあは一言「いえ、……別に」と返すより他なかった。 「えーっと、ここは……」 「ボイラー室?」 「ボイラーって何ですか?」 「知らない!!」  どこに鍵がかかっていて、どこが入れる部屋なのか。それがなんとなくは把握できる程度に暫く辺りを観察しつつ歩いていると、小さく稼働音を発している部屋の前に辿り着いた。扉は鍵こそかかっているものの少し歪んでおり、そのせいで随分と防音性を損なっているように思える。  地面にべったりと座り込み、その微々たる隙間から中を覗き込んでいる秀によれば「よく分かんないけどごちゃごちゃと大きい機械がある」そうで、そして彼の必死の観察も虚しく、残念ながらのあには「そりゃこれだけ機械音してりゃそうだろ」以外に感想が思い浮かばなかった。 「この扉棒とか押し込めばこじ開けられるんじゃない?」 「なんて?」  不意に下から聞こえてきた脳筋な提案に、仮にも年上に対し敬語すら忘れたのあが困惑を滲ませた目を向ける。そもそもこじ開けてどうしようというのか、開いたからと言ってなんだと言うのか、しかしそんな事を聞いている暇もなく、思い立ったら即行動、秀が立ち上がってのあの手を引いた。 「目覚ましたとこさ、倉庫ぽくなかった? のあちゃん行こ、戻ろ、多分棒とかなんかあるって!」 「は、ちょっと……!!」  結局、最後まで楽しそうな秀に無理矢理手を引かれ連れてこられるのあ、という構図ではあったが先程までいた一室に戻ってきた二人。ボイラー室の扉をこじ開けるのに丁度よさそうな棒探し、という、体力を奪うだけで大した意味のなさそうな行動に、正直のあはあまり乗り気ではなかった。 「はー……なんで私がこんな……」 「駄目だよ、ちゃんと探さなきゃ」  先程から秀の話にはいはい、と軽く生返事だけして聞いていたのあだが、珍しく真剣なその声色に無意識にそちらに視線を向ける。秀はといえば、物で溢れた大きな箱を、のあの方をチラリと見ることもなくガサゴソと漁っていた。 「調べられるところは全部調べて、拾える情報は全部掻き集めるんだ。もうこの場所に戻れないかもしれない、必要になった時に、逃した情報で後悔したって遅いでしょ?」 「……」 「どこかに鍵があるかもしれない、どこかに道があるかもしれない。だから端から、端まで。……そうしたらさ」  真剣に箱の中を見詰めていた秀の目線が、ふわりと笑顔を浮かべてのあの方を見る。箱を漁る際に傷付いたのか小さな傷を増やした手には、折れ曲がって本来使い道のなさそうな鉄のパイプを持っていた。 「きっと一緒に外行けるよ、のあちゃん」 「……。……うん」  行こ、と、秀の手がのあの方に伸びた。対するのあの手には多少の迷いと躊躇が感じられたものの、その手を握り返してしまえば、ボイラー室前に着く頃にはもう慣れてしまったようだった。 ──ガシャーーン!! 「うるっっ……さ!! ちょっと、これ人集まってくるんじゃ……」  歪んだ扉を、棒を押し込んで力任せに開ける。それ事態は成功したものの、あまりの爆音でこれではのあ達を閉じ込めた犯人に「私達は脱走しました、今はボイラー室前にいます」と馬鹿正直に告げているようなものだ。と、思考を巡らせている間もなく、バタバタとした足音が聞こえてきた。 「ああああ馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!!!」 「っと、えっと……っ、あ、あれ!! あの箱、一人なら隠れられる、入って!!」  そう言って、秀はのあをボイラー室に置き去りにされていた空の箱の中に押し込む。近くの物を適当に配置してカモフラージュしたおかげで、パッと見では気が付かないだろう。 「は!? あんたは、」 「……、捕まったら、助けに来てね」  そう言って、震えた声で多少怯えたように笑った秀は、のあの返事を待つこともなく扉の外に走っていった。  数秒後、外から微かに声が聞こえる。要点までは分からず、途切れ途切れにはなってしまうものの、少なくとも三人以上での会話であることは理解出来た。 「……は、……のままでいいのですか、今なら確実に……」 「大丈夫、今は……、それにここは……。実験にも、……」 「……した。大司教のご判断であれば、…………でしょう」 「(……大司教!?)」  途切れ途切れにしか聞こえない会話の中、のあのいる場所までも確かにはっきりと聞こえた、「大司教」の単語。それがここ、中央大司教区のトップである柊真尋のことなのであれば、彼がのあ達を閉じ込めた犯人なのだとすれば、敵はあまりにも強大すぎる話だった。もしあの噂が真実で、正真正銘『ヴァルミナ教』が敵であったのなら、そして今なお泳がされているだけだと言うのなら、ただの一般人であるのあ達に勝ち目などないのは明白だった。扉が閉まる音がして、足音が遠くなる。早く脈打つ鼓動を落ち着けようと、のあはその場で深く深呼吸をした。  柊、真尋。その名を、そして彼のことを、のあは知っているはずだった。しかし、顔も、声も、何故か思い出せない。それは、先程微かに聞こえた声が本当に彼のものなのか、それすらも判断できない程だった。彼についてだけなのか、もっと他に何か抜け落ちてしまっているのか。それすらも、分からなかった。 また、夢の中の声が反響する。 言語としては認識できないほどに朧気な声。 「──████████████」  拾える情報は、全部掻き集める。信用ならない男の言葉だが、確かにそれはのあの中の意識を変えたらしかった。  暗闇の中、スマホの懐中電灯機能を使って机の引出し、棚の中、床の隙間まで一つ一つ確認していく。勿論、スマホの電池は貴重なので一番弱い灯りなのだが、それでも物の有無を確認する程度であれば充分だった。特にめぼしいものも無かったのだが、部屋から出ようとしたその時、部屋の端、机の上に、キラリと光を反射する何かを見付けた。 「これは、……また鍵? なんか書いてあるけど、暗すぎて読めないな。一応持っとくか」  それは相変わらず小さな鍵で、文字の書いた小さなストラップが付いている。ひとまずポケットに突っ込み、ドアノブに手をかけた。 手首をひねる。一回。二回。……三回。 「……あかない」  血の気が引いていく、とはこういう感覚のことを言うのだろうと、のあはドアノブをガチャガチャと回した。先程の鉄パイプは外に置いたままで、ここは壊せそうもない大きな機械と、役にも立たなそうな小物だけが置かれた部屋だ。壊れているのを見る限り鍵を使って閉められた訳ではなく、室内から開けることは出来なかった。大司教やその仲間が閉めたのであろうことは明白だろうと、のあは自身の危機感の無さに怒りを抱く。とはいえ気付いていたとしても絶望が少し早く襲い来るだけで、この状況は変わらない訳だが。  ふと背後から、小さな呻き声が聞こえた。ゆっくりと、振り返る。 「……は?」 「あ"  ァ ア" 、ィ"、あ? アマ"、ヒ」  溶けて、所々骨の露出した上半身が、そこにいた。頭は皮で繋がっているだけのようで、だらりと重力に負け、垂れている。真っ黒く濁った、ドロドロした瞳で、ソレはのあを認識して笑みを浮かべた。 「……───ッ!!」  のあの本能が、警鐘を鳴らしている。ここの他に、扉はない。通気口から這い出そうにも、ソレが目の前に鎮座している。その上、かなり天井近くに設置されたものに、よじ登るだけの余裕は無さそうだった。 「ぁあ、いー、ぇえええへへへへはへひひひひはへひひ」  足の力が抜けて、その場に座り込む。刹那、溶けて本体と離れた腕が、物凄いスピードでのあの頭上を掠めていった。爆発音にも似た音を出して、壁に人が余裕で一人通れそうな程の大きな穴が開く。そしてその腕は、ドス黒く酸化した血液で繋がっているかのようにズルズルと本体の方へと戻っていった。 「ぃひひひひへへへははははははははははははははははははははははははははは」  笑い声が響く。ソレの目は、先程から確実にのあの方を見つめている。べちょ、と音を立てて、ソレが一歩、近付いてきた。  どうにか起き上がったのあが、壁の穴から外へ抜け出した。背後でまた爆音が鳴り、笑い声は絶えず響いている。ソレは本体のスピードこそ遅いものの、腕や血液を器用に使い着実にのあの方に近付いていた。今まで出したこともないようなスピードに、普段であれば自分はこんなに速く走れる、と得意げに自慢でもしてみせるのがのあだが、今はそんなことを考える余裕もなかった。白い玄関のような扉、地図に『警備職員室』と記載されていた部屋のドアノブに手をかけると、その扉は簡単にのあに道を譲った。  棚の中、ダンボールの中、武器になりそうなものを探し、あらゆる場所をひっくり返した。あちらこちらの鍵がそこらに放置されているのはかなりどうなのかと思うのだが、またしてもどこかの鍵を見付けたのでついでにポケットに押し込んだ。そして引き出しを開けた時、片手サイズの黒い光沢のある『アレ』を見つけた。 「け、……拳、銃……?」  バァン!!と壁が悲鳴をあげた。ただでさえボロそうなこの施設の壁は二度目を耐え切ることは出来なかったようで、のあは再びソレと至近距離で対峙することになった。 「……は、はははははははははははははははははははははははははははははは」  のあを確認したソレは、また頭の最奥まで深く突き刺すような笑い声をあげる。そして、腕を振り上げて── ──銃声が響き渡った。 「っ、……はぁっ……、……は……ッ」  こんなところで、FPSで培った能力が生かされるとは誰も思いはしなかっただろう。たった一発残っていた弾で脳天を綺麗に撃ち抜かれたソレは、床に崩れ落ちるとかろうじて残っていた皮膚をドロリと溶かし、所々断片を残したまま赤黒い血溜まりへと変わった。漸くと言うべきか、今更と言うべきか、全てを理解した脳が身体を小刻みに震わせる。転んでいたら、効かなかったら、外していたら、それ以前にどこにも武器なんてなかったら、きっと今、のあはここにいないだろう。その事実に震えも治まらないままに、のあは立ち上がってその場を後にした。  ──何かが、のあの脳裏に浮かぶ。 それはまるで、あの化け物に、心臓を抉り取られるような。恐怖のせいか、嫌な想像を膨らませてしまって、そしてそれのせいでまた、余計な不安が募っていく。 頭を振って、思考を追い払って、前へと進んだ。   「……秀、大丈夫かな」  ぽつりと、のあがそう零す。あんな化け物が他にも徘徊していたとしたら、ただの一般人が二人共に無事、だなんて確率としてはそんなに高い話ではない。勿論、今後またのあが遭遇して殺される、という確率も含めての話だ。  ここがもしヴァルミナ教会内部だと言うのなら、殺人宗教という噂は真実で、その上噂なんてものは真実のうちのほんの一部でしかないと考えるのが自然だろう。 「あああもう、考えてたって分かるわけないじゃん!! うるさいなぁ!!」    のあがそう、頭を抱えて蹲った。そして少しの間唸った後に、今にも涙が零れそうな表情で、壁に飾られた十字架に手を伸ばした。 「大丈夫、ただの噂だよ、だって、だって神様も、みんなも悪人なんて、そんな訳ないでしょ……」  のあの言葉は、信じている故の言葉というよりは、まるでそう、自分に言い聞かせているもののようだった。   「──あれ?」 「!!」  聞き覚えのある声が、聞こえた。 戻る 次へ Up

  • episode:03 再会 | 楽園都市管理室

    戻る episode:03 再会 「生きてる……。……良かった〜〜!!」 「うおわっ」  その声の主、相変わらずパーソナルスペースという概念を微塵も知らないのであろうその男──広瀬秀は、のあに抱きついて肩に顔をうずめた。 「近いわ」 「あ、ご、ごめんなさいっ……すごい音して、僕、僕逃げてるとこ、見て、……っ、死んじゃった、かと……」  そう言った秀の大きな目から、ぼろぼろと大粒の涙が溢れる。ぎょっとした表情のまま固まるのあを置いて、秀は何度も小さく「良かった」と零した。 「ごめんね、助けに、いけなくてごめんね、僕歳上なのに、のあちゃん女の子なのに、ごめんね……怖かった……」 「べ、別に良いですけど……まぁ、あんたも無事そうで良かったです」  のあがそう言って笑うと、耐えきれなくなったのであろう、余計に目にたくさんの涙をためた秀が「のあちゃぁあああん」と再度抱きしめた。 「く、……くるしい…………」 「怖い、怖かった、ひとりにしないで、……置いてかないで……」 「いやどっちかって言うと置いてったのそっち……まあいいや……」  のあはと言えば棒立ちのままで、暫くの間そうしていると、ようやく落ち着いたのか秀が小さく「……ごめん」と呟いた。 「僕、僕ね、……僕強く、なりたくて、……だって年上だから、男だから、怖がってたらかっこわるいでしょ? だからね、こんな状況でも冗談言って笑えて、楽しんで探検できる、くらい……頑張ったん、だけど、……やっぱ怖いよ……」  そう言って、「のあちゃんはかっこいいね」なんて笑う秀に、のあは思わず吹き出してしまった。そんなのあの様子を見た秀の頭上に、そんなはずは無いのだが、たくさんの疑問符が見えた。 「かっこいい、って。あんた私が扉開けるのすらビビりまくってたとこ見てたじゃないですか、一瞬で名誉挽回出来ちゃった感じ?」  ああおかしい、とのあが軽く秀の頭を撫でれば、柔らかくふわふわとしたそれは、嫌がるどころか少し嬉しそうに、子供のようにのあの手に擦り寄った。 「あんたのが充分かっこよかったですよ、秀。例え強がりだったとしても、……まぁ冗談はちょっと下手かなって思いますけど」 「うん、……ごめんなさい。次からは、もっと気を付けるね」 「そもそも別に冗談言ってる場合でもないですけど、まあ、和ませようとしてくれてんなら……ありがとね」  そういうと、うん、と彼が笑った。 「……、あんた、どこかで██████████████████████████████████████████████████████ 「……ッ!!」  突如、のあの頭をノイズが走ったような激痛が襲った。それはほんの一瞬で、たった1秒にも満たないものだったが、大丈夫?と心配そうな秀の声が、やけに遠かった。  聞いたことがある声に、見た事のある表情。のあがそれを思い出そうとする度、思考のノイズがその記憶を邪魔してくる。そしてそのノイズは、どうしたって剥がすことは不可能そうだった。 「……、ごめん。行こう」  そう、方向を変える。今ののあには、使い慣れない敬語を使う余裕も、こちらを見る秀の表情を、見ている余裕もなかった。ふと思い出して、先程警備職員室で拾った小さな鍵をポケットから取り出した。 「武器庫の鍵? どこで見つけたの?」 「警備職員室で。普通に引き出しの中に適当に押し込まれてましたよ」  随分雑な管理してますよね、と付け足して地図を見る。秀の言う通り、この鍵には小さく「倉庫B」と書かれた青色のキーホルダーが付けられていて、そして地図上で「倉庫B(武器庫)」と書かれたその部屋は、丁度今私たちがいる目の前の扉を、開けた先らしかった。 「じゃ、行きましょっか」 「うん、そ〜だねえ」 ガチャ、と鍵の開く音がする。扉の向こうは少し埃っぽくて、電気を付けても尚薄暗い部屋だった。そして。 「……はっ、ゲームの中かよ……」  そして、壁にかかったりダンボールに詰め込まれていたり様々な銃やナイフ、そんな中に混ざっているせいで鋭利な武器にしか思えないアイスピックや、果たして一体誰が使うのか釘の刺さったバット……と、秀ですら、思わず「随分ファンタジーだね」とツッコミを入れたくなるような光景が広がっていた。 「ナイフ、借りてこうかな」 「使えるの? 怪我しない? 危なくない?」 「心配性だな……護身用に、一個くらいあった方が良くないですか? 銃だとリロードの方法とか分からないし」 「それもそっかぁ。うぅ……気を付けて持ってね」 「あんたは? いいんですか??」 「……僕、刃物苦手だから、大丈夫」  その返答に対して、のあは何かを言おうとした。しかし、そっと自分の腕を握りしめて目を逸らす秀に、それ以上何も言うことは出来なかった。 「あ……そういえばさ、のあちゃん。さっき逃げてる時見つけたんだけど、これ使えるかなあ」 「?」 そう言って秀から手渡されたのは、黒色のカードだった。ちらと裏面を見ると、そこには「Mihiro Hīragi」の刻印がされている。それは細かな傷一つない、綺麗なカードだった。 「さっき、向こうにカードキーないと動かないエレベーターがあってさ。もしかしたら出口とかかも! って思って。でね、どうにか開ける方法無いかなー? って探してたらこれ見つけたから……のあちゃんと一緒に行きたいなあって」 「……ひいらぎ、みひろ」 「そう、柊 実尋。大司教の双子の弟で、ここの司祭でしょ? どこにでも行けそうな感じしない!?」  そう言って早くも目を輝かせる秀が、地図を見せて欲しいと急かす。彼の言う奥まったその場所には、確かに小さくエレベーターらしき記号が書かれていた。向かう先は地図にも記載されていないが、出口へ通じている可能性はゼロ、とは言いきれないだろう。嬉しそうに先導する彼について、のあもその場所へと向かった。 『カードキーを認証してください』 辺りに小さく、無機質な声が響いた。先程受け取った黒いカードをかざすと、「ピロン」と可愛らしい認証音が鳴る。 『カードキーが認証されました。ID、パスワードを入力してください』 「……。……知ってます?」 「んーん、知らない!」 「ですよね……はぁ、そう簡単には行かないか」  探しに行く? と、毎度何故か探索には乗り気な秀と、相変わらず他に道もないので渋々同意するのあ。秀は早々に「じゃあ僕こっち探してくるね」と行ってしまったので、のあは彼の向かった方とは反対側に歩を進めた。いくつか部屋の中を探し回っているうちに、秀が最初に見回っていたはずの小さな部屋の扉が開いて、小さくこちらを呼ぶ声がした。 「……い、おい」 「? ……秀?」 「違う。そいつが戻ってくる前に、早く来い」 「……信用できる要素は?」  のあがそう問うと、声の主はほんの少しの沈黙を返す。そして、諦めたかのように姿を見せた。暗い黒の髪は肩に付くか付かないか程度の長さで、軽い外ハネになるようにセットされていた。ピンク色のメッシュが特徴的な、顔立ちは存外可愛らしい、身長の高い男性だった。 「……俺は、柊実尋。藍葉のあ、お前が持ってるそのカードキーの持ち主で、少なくともお前の敵じゃない」 「柊、実尋、って……秀からは、隠れていたんですか? こんな状況で、聖職者である貴方たちを信用しろ、って方が難しいとは思いますけど」 「それ、は……まあ、そうだろうな。俺でもそう思う」  軽く、サラッと認める彼、実尋に、のあもどこか拍子抜けしたのか若干警戒を緩めた。彼はどういう訳か、特にのあに危害を加える気は無いように見えた。 「……パスワード」 「?」 「必要なら好きに使え。俺の筆跡だ、疑われることもないだろ。IDは名前の上の数字だ、指示が無い限り英字は含まなくていい」  そう手渡された紙の切れ端には、確かにパスワードらしき数字の羅列が、直筆で記されていた。 「それ使ってどこに入りたいのかまでは知らないけど。もうアイツが帰ってくる頃だ、……気を付けろ」  そこまで言うと、実尋は若干慌てたように部屋に戻る。直後、「のあちゃ〜ん?」と気の抜けるような声が、向こうから聞こえてきた。 「ああいたいた、どーぉ? なんか手がかりあった?」 「……秀、……。……パスワード、見付けた」 「えぇ!? ほんと!?」  秀は本当に驚いた、とでも言いたげな表情を浮かべて、そしてちら、と先程実尋が引っ込んで行った部屋の扉を眺める。それは変わらない笑顔で、ほんの一瞬で、それでもどこか、何か、思うことがあるような。そんな表情にも見えた。 「やったぁ、これで外出られるねえ!……ああ、外かはわかんないか……とりあえず行ってみよー!!」  そう言ってのあの手を引く秀の力が、どことなく、ほんの少しだけ強いような、そんな気がした。 『カードキーが認証されました。ID、パスワードを入力してください』  先程の機械に、教えてもらったIDと、パスワードを入力する。 『……柊 実尋 ID:20040782 クラス:priest 認証が完了しました』  機会の稼働音がして、エレベーターの扉が重い音を発しながら開かれた。予想に反して、地下への一方通行のようだった。 無機質な飾り気のない、静かな四角い箱の中。秀が一言、口を開いた。 「ねえ。さっきのカードキー、僕が持っててもいい?」 「は?」 「だって僕パスワード知らないんだよ、のあちゃん、ほんとは僕のこと信用してないでしょ?」 「……そう思うなら、どうして渡すと思うんですか?」 「…………置いてかれたくない」 「……。はぁ、別に行きませんよ。ほら、そんなら持っててください」  信用していない。それは事実、といえば事実なのだが、当の本人からそう言われてしまうとそれはそれで腹が立つのがのあという人間だった。若干不機嫌がちにカードキーを手渡すと、秀は「え、」と声を漏らす。 「いい、の? ほんとに??」 「どーぞ! その代わり、勝手にどっか行ったら怒りますからね」 「っ、うんっ! 約束する、あの、」 「? なに」 「ありがとね、のあちゃん」  ポーン、と音を鳴らして、エレベーターが到着する。一直線の、純白のタイルが張られた短い廊下だった。正面に、両開きの鉄扉が構えている。重たい扉を開く。 「ひ、ッ」 先導していた秀が、怯えたように後退った。 ───噎せ返る程の、鉄と、腐敗の臭いがした。  少し前まで、心のどこかで馬鹿らしいなんて笑い飛ばしていた噂が、急に現実味を帯びて目の前に転がっていた。生温い空気が、立ち込める臭いが、赤黒くこびりついたその何かの塊が、目に、脳に、強烈に焼き付いた。のあの人間としての本能が、理性が、倫理が、その光景を拒否しているようだった。 「ぉ、え、」  逆流してくる胃の中のそれを、抑えることも出来ずその場に吐き出す。死体、とすら、形容できない、腐って爛れた肉の塊の中。その中に時折、まだ新しい人間の腕やら臓器やらが千切れて混ざっている。その場にある量こそ少ない──とはいえ優に10人分は超えるであろう──が、廃棄されたか、跡形もなく腐り果てたのか、明らかに10人やそこらが保有する量では無い夥しい量の血痕が、薄暗く小さな、穴を掘っただけのような部屋とも言えない部屋の中に飛び散っていた。 「何してるの?」 「!?」  不意に響く幼い少女の声に振り向く。ずる、びちゃ、と何かの音が響く。 「ゴミ捨て場で座り込まないでよ、邪魔だなぁ」  ───透き通るほどに柔らかな肌に、光をキラキラと反射する艶やかな白いツインテール。中学生にもならないような、まだ幼さも抜けきらないながらに美しいその容姿に良く似合う、フリルの沢山あしらわれた可愛らしい純白の衣服。それにじわりとよく目立つ、鮮血の赤色を染み付けた子供がいた。その子供は、のあのすぐ隣まで歩み寄ると手に持ち引き摺っていたその肉の塊を扉の中に投げ込んだ。  のあは、彼女を、知っていた。聖女マリアからとった名前を冠す、天使様と呼ばれる、人懐こく可愛らしい彼女を。 「みあ、ちゃん」 「ん? ……ああ、のあちゃん? ごめんね、暗くてわかんなかった。そっちの人は?」  そう言って、こちらに歩み寄ってぐい、と秀の顔を覗き込むミア。小さく引き攣った悲鳴を零して秀が後退る、その様を見て小さく「ふっ」と笑って見せた。 「そういえばなんか言ってたっけ? あんまキョーミなくてちゃんと聞いてなかったけど。そーゆーことかぁ」 「っ、ミアちゃん、これ何? なんであんたがこんな、どういう事なの説明してよ!!」  そう詰めると、ミアは面倒そうに溜息を吐いた。 「うるさいなぁ、こんな事で騒がないでよ。これ、全然良いお肉じゃなかったから捨てに来たの」 「は、? 良い、お肉?」 「ミア、お食事沢山作ってあげたでしょ? 柔らかくて、美味しいお肉だったでしょ? ミアが、ちゃーんと選んでたからだよ?」  ミアが、笑顔で、腕を広げた。“天使様”の振る舞う料理はどれも絶品で、天使の加護だと、いつも信徒達に大人気だった。そしてのあも、好んで食していた。彼女の作る、得意とする、肉料理を。 「ま、って、……待ってよ、そんな、」 「勿論、救済の過程で魔力は抜いてあるから、大丈夫だよ。害はない。というか、適度な魔力を浴びながら育ったお肉はね、柔らかくって、肉汁た〜っぷりで美味しいんだよ?」  肉だけ剥ぎ取られたような、死体が見える。  四肢が、指が、バラバラにされた、死体が見える。  内臓を引きずり出されて、解体された、死体が。 「のあちゃんも、知ってるでしょ?」 「ッ、ゔ、」  胃の中身は、もう残っていなかった。胃液がこみ上げる。震えが、涙が、止まらない。同じように震える秀の手が、それでものあを慰めようとするかのように優しく肩を撫でた。 「随分怖がってくれてるみたいだけど、ミア悪いの?」  ミアの血に染まった両手が、彼女の純白の衣服を汚した。 「ミア、ずーっとこうやって生きてきたんだよ。これが当たり前なの、こうしろって言われたの、何が悪いの?」 その言葉は、言葉だけは、まだ純粋な子供のようにも聞こえた。それでものあは、子供だから、なんて。それで救われるのなら、なんて、言えるわけがなかった。 「……、それでも、……それでも私は、あんた達のこと、最低だとしか思えない」 「そう? 残念、同情作戦だいしっぱ〜い」  ミアはそう言って、見下したように目を細める。血塗れの手を口元に添えて、あは、と笑った。 「今だって、何も気付いてない癖に。……あははっ」 「は? どう、いう、」 「ミア着替えなきゃ。じゃーね、ばいばい」  血染めの天使が、ふわ、と軽い足取りでエレベーターの隣の階段へ向かった。優しく、寄り添う天使様なんかじゃない。無慈悲で、無情な、残酷すぎる天の使いのようだった。 「……え、あ」  不意に、秀が小さく声を漏らして、一点を見つめたまま固まった。先程、ミアが持ってきた遺体の方。呼びかけても、ただ沈黙が帰ってくるだけだ。 「……秀、秀? どうし……」 「あ、ああ、ごめん。……昔の友達だったんだ。さっきミアちゃんが連れてきた子」 「え」 「残念だなぁ、こんな所で、こんな形で、会うなんて。……本当に、残念」 「……」  秀の手が、優しくその血に塗れた頬を撫でた。 「……、残念、って」 「行こっか」 「……」  その手が、無理矢理のあの手を引く。ぬるりとした血の感触が、まとわりついて気持ちが悪かった。先程ミアが昇って行った階段以外に特に道は見当たらない。階段の先はきっと元のフロアだろう。幅の狭い石の階段、先を行く彼が、のあの手を離す。一段目に足を踏み出した、瞬間だった。 『ビーッ!ビーッ!』 「!?」  耳を裂くような警報の音に一瞬のあが怯んだ、その瞬間だった。秀とのあの間に、ちょうど隔てるかのように勢いよく鉄の壁が落ちてきた。 「ッ、ねえ! そっちから開けられないですか、っ、出して……」  シャッターを叩いてそう声を張り上げてみても、声は通らないのか秀からの返事は無い。それでも、カードキーとパスワードを、秀は持っているはずだ。  ぬるりと、のあの手に付いた血が触れた壁を染めた。 「……放置、しない確証は無い、か」  肉塊にまみれた、辺りを見渡した。これで終了だなんて、そんなの認められなかった。 「脱出ゲームってこと、ね……」  血の海へ、1歩踏み出した。 グチャ、と、生々しい嫌な音がした。 戻る 次へ Up

  • episode:04 ?? | 楽園都市管理室

    戻る episode:04 ??  ……コツ、コツ、と、靴の音が響いている。その足音に、パタパタと慌てたような足音が近付いていた。 「真尋様! 彼女は? 我々は、一体どうしたらいいのですか!?」  黒の短髪が、真尋の血に塗れた手を気にもせずに握る。歩きながら、くるりと振り向いた真尋の紫の目が、穏やかに細められた。 「ああ、大丈夫だよ。あれなら暫く身動き取れないでしょ。今のうちに、神咲様と連絡取れないか試してみる」 「しかし、神咲様は今日」 「典礼。そのくらい知ってる、すぐに連絡がつく確証はない。だから今のうちに薬の調合をお願い、もっと強力なものを」 「そんな無茶な、……いえ。畏まりました。ああくそ、神咲様さえいてくだされば……」  ブツブツと愚痴をこぼす彼の手を、真尋は「彼の所属は、本来もうここじゃない。仕方ないよ」とそっと撫でた。 「それに朽木さんがいるでしょ、技術に関しては神咲様と並ぶか、それ以上のはずだよ」  真尋がそう諭すと、彼は小さく不満げに「……コミュニケーション能力に問題があるのですよ」と零した。 「それで、どの程度強力なものを?」 「完全体の天使にも効くものを」 「!? な、ッ、そんな、そんなの過去一度も……!!」  真尋のその返答は、完全に予想外だったのだろう。それもそのはずで、完全体とされる天使は彼も、それに真尋だって見たことがない存在なのだ。あのミアでさえ、完全体とは言えないのだから。有り得ない、というような、或いは無茶を言うなとでも言いたげな表情で、彼がそう嘆く。 「そうだよ。彼女が初めて。失敗品って思ってたけど、違ったみたい。目覚め始めてる、ノアが、確かに」 「それ、は……どうして、そう思われるのですか? 神咲様さえ、彼女は処分対象だと……」 「うん。その点は、少し時期尚早な判断だったと言えるだろうね。現に処分対象の失敗品なら、生き残るはずがなかったんだ」  フワリとパーカーの裾を揺らして、真尋がパソコン前の椅子に座って足を組む。そして椅子を回転させて、彼を正面から見据えた。 「彼女は警備職員室から武器を取った。でも、警備員は銃を肌身離さず持ち歩いているはずでしょ? それが規定だし、実際手ぶらで歩くにはあそこはたった十秒だって危険だから。あそこに置いてあるのは、……神の祝福を施した、対人間用の銃」 「……耐えきれなくなった時の自殺用、ということですか」  「ご名答」そう言って、真尋がクスリと笑った。 「彼女は処分対象。でも、どうも失敗の確証が持てなかった。運がいい、そう言いきってしまうには奇跡が多すぎたんだだからああして観察した結果はこの通り! 本来あの銃じゃ悪魔は死なない。救世主の力が! 漸く!! 目覚めたんだ主は我らに方舟を与えた!!!! ふふっ、あっはははははははははははははははは!!!!」  陶酔した様子で、真尋は両手を大きく広げて高笑いしてみせる。暫く後、祈るように手を組んだ彼は小さく、「救済の日は近いよ」と微笑んだ。 「でも、なら、その力を正しく使えるように、僕達は手助けしてあげないと。そうでしょ?」 「ええ、真尋様。その通りです」  真尋が、優しく微笑んで彼の手を取った。 「大丈夫。僕達は、救われるよ」  ──全て、神の、導くままに。 「ああ、そうだ。武器庫の鍵、見つかったよ」 「ああ……どうでした?」 「予想通りかな。裏切り者の処置は、今回は望月兄妹に任せてある。なにかあったら、手を貸してあげて」 「はい。それでは……神の御加護が、あらんことを」 戻る 次へ Up

  • ノエル | 楽園都市管理室

    < Back ノエル データ名 ノエル・ヴァレンツァ Noel・Valenza 所属 ヴァルミナ旧教 身長 195.0 性別 男性 生年月日 不明 like 神 dis like ⬛︎⬛︎⬛︎ ID:Ⅳ-δ -301 データ固有名:ノエル・ヴァレンツァ/Noel・Valenza Ⅳ-δ -301【ノエル・ヴァレンツァ】は、エターディア第三位〈神〉により作成され、模造世界〈禁忌の封国〉に存在するデータファイルです。 〈神〉を信仰する宗教【ヴァルミナ教】の、教祖という立ち位置です。救世主クライスト同様、一度死亡したものの復活を遂げたとされ、教祖という立場でありながら自身もまた信仰の対象にされる事が多いです。創世者ヴァルノエル同様の純白の髪を持ち、瞳は閉じられた盲目の男性とされています。厳格で冷静、しかし穏やかで真に神を愛する彼は、信徒達からも慕われています。 関連ファイル:[災約聖書] ---以下模造世界音声データ--- 【ID】:REC-IW00000000 【記録日時】:0000/00/00 【記録世界】:禁忌の封国 【備考】:一部ファイル破損あり 「ヴァルノエル。俺は、……俺には、貴方が███████存在だなんて思えない!どうして、貴方が……貴方は……っ」 「ふふ。こんな私の元に生まれて、契を交わす君達は、とっても可哀想だね」 「……そんな事ない……」 「そうだね、君はそう返す。そうとしか返せない。だって、君は私の創造物だから」 「……」 「そうだ、ねぇ。君に私の名前、貸してあげる」 「は?」 「ノエル。君は、ノエル。ノエル・ヴァレンツァ。そうして生きていくといい、君に、私の世界に私を広める、大事な役割をあげる」 「そんな事急に言われたって、俺は██なんだぞ、分かってるのか!?」 「私に、分からないことがあると思う?君は許可するよ。そう言ったら、私の言葉を、君は否定する。……しようとしたでしょ?ふふ。だけど、この言葉で、その否定を飲み込んだ。だって、私が今、君という像をそう定めたから」 「……はぁ。わかった。貴方に何を言おうと、基本無駄だからな」 「そうだよ。私は君達という存在を創造し、定義するもの。君達の正解で、君達の意思。私が神なんだから、当然でしょ?」 「ヴァルノエル」 「ヴァルでいいよ」 「……ヴァル。俺は、貴方を信じ、愛し、貴方の為に生きると誓おう。貴方に選ばれた、教祖ノエル・ヴァレンツァとして」 「うん。誓って」 Previous Next

  • ヴァル | 楽園都市管理室

    < Back ヴァル データ名 ヴァルノエル Valnoel 所属 創世機関【エターディア】 身長 220.0(可変) 性別 無性別(男性型) 生年月日 無 like ⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎ dis like 暇 ID:Ⅱ-δ -000 データ固有名:ルノエリスタ/Runoelista Ⅱ-δ -000【ルノエリスタ】は、月歴4893年ユデリアより新たに〈災厄〉に分類されています。基本名称はエリスト。第一位により天空エリアに封印、監視されています。また、同日エターディア第三位〈神〉に振り分けられ、【ヴァルノエル】の名称を冠しました。 純白に限りなく近い白金色の柔らかな長髪、光加減により色を変える瞳を持つ美しいヒト形の容姿をしており、耳とされる場所には二対の白色の翼が生えています。形状は原初の国【カラス】に近いですが、その機能は特に準拠してはいないようです。 天空エリア、及びエリア内〈天使〉を統括しており、模造世界〈禁忌の封国〉を作成、管理している創世者です。 関連ファイル:[災約聖書][Innocent:Crime] ---以下楽園都市保管音声データ--- 【ID】:REC-PL49310316 【記録日時】:月暦4931/セレスタリア/16 【記録エリア】:パラディースト・ロギア-天空エリア 【備考】:なし 「虚構様。どうしたの?次の検査日はまだ先じゃなかったかな」 「災厄のおまえを、できる限り監視しておくことは当然だと思うけど?余計な口出しはするな、ヴァルノエル」 「うん、それもそうだね。安心して、私は何もしてないし、出来ないよ」 「どうだか。おまえは隠れるのが随分上手かったみたいだ」 「ふふ。隠しているつもりはなかったし、私は、今も私がどうして災厄なのか、分からないままだよ」 「……そんな事、別にどうでもいい。事実は事実だ」 「ふふふっ、君が言ったのに。まぁそれなら監視していてよ、少しの間、話し相手になって」 「少しだけだ。わたしはおまえと違って暇じゃない」 「うん、勿論、少しだけ」 Previous Next

  • 罪過の愛が溶ける迄 | 楽園都市管理室

    < Back 誰だって幸せな夢に溺れて、沈んでいたいはずでしょ? 夢を見ていた。ひどく嫌な夢だった。 知らない世界。どこかで、見たことのある世界? わからないけれど、暗くて、とても冷たい世界。 誰もいない場所で、裸足のままひとりで歩いていた。 わたしを呼ぶ声が聞こえる。この声は、悪夢から呼び戻してくれるあなた? それとも────── ──お早う。 目が覚めた? ひどく魘されていたよ。 どうか、幸せな夢から⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎。 流血/欠損 有 Story 『夢と現実の境界が、崩れ始めている』 そう言って助けてと手を握ったのは、たった一人の家族で、親友だった。 溶け出す壁、動き出す時計。真っ黒な【影】たち。境界の狭間から夢が流れ込むことによって、この世界では様々な異変があちこちで起こり始めていた。 親友──セライアには、その異変を消す力がある。しかし日々増え続ける狭間により、一人では異変に対応しきれなくなってしまったと言う。 「………本当は、君を危険に晒したくなかったんだ。でも君には、狭間を塞ぐ力がある。お願い、……助けて」 震えるその手を握り返して、二人で、この世界を守ろうと指切りを交わした。 異変を消して、狭間を塞いで、この、世界を。 第一位【虚構】ヴァストエル 罪過の愛が溶ける迄 ホラー/サスペンス ルート分岐/無し(死亡等によるバッドエンド有)

  • ヴァストエル | 楽園都市管理室

    < Back ヴァストエル データ名 ヴァストエル Vastel 所属 創世機関【エターディア】 身長 230.0cm(可変) 性別 無性別(男性型) 生年月日 無 like ⬛︎⬛︎、眠ること dis like 世界 ID:Ⅱ-α-000 データ固有名:ルストリア/Lustlia Ⅱ-α-000【ルストリア】は、月歴4893年のユデリアよりエターディア第一位〈虚構〉に振り分けられ、【ヴァストエル】の名称を冠しました。基本名称はリア。 本来は決まった形状を持たない、沢山の瞳がついた黒の液体状の姿です。しかし、ロギアで基本形とされる原初の国「ヒト」の容姿を取ることが多く、その際は純白且つ内側が元の姿同様の漆黒をした長い髪に白に近い肌、瞳は閉じた状態の長身の男性形の容姿をしています。 主に深海エリアを統括しており、天空エリアにて現在第三位に座す〈災厄〉の封印、及び監視も行っています。模造世界〈夢遊の海淵〉を作成、管理している創世者です。 関連ファイル:[罪過の愛が溶ける迄][Innocent:Crime] ---以下楽園都市保管音声データ--- 【ID】:REC-PL45130403 【記録日時】:月暦4513/ルメリア/03 【記録エリア】:パラディースト・ロギア-天空エリア 【備考】:音声データに一部破損、乱れあり 「ルスト。ルスト、起きて」 「んん……██?██だ。おはよう」 「おはよう、ルスト」 「……ふふ、おいで、██」 「わ、……ふふっ、何?今日はまだ寝るの?」 「だめ?」 「うん?どうして?いいよ。君の好きなことも、ものも、知りたいから」 「ねえ、██。わたし、おまえとならわたしでいられる。おまえとなら、この世界もたのしいよ」 「?そっか、よかった」 「わたしと出逢ってくれてありがとう、わたし██と一緒にいられて幸せ。これからも、ずっと隣にいてくれる?」 「なぁに、急にどうしたの?勿論、君が私でいいのなら」 「██。わたし、██がだいすきだよ。一番、誰よりも、愛してる」 「……ふふ、知ってる」 Previous Next

  • episode:00 プロローグ | 楽園都市管理室

    戻る episode:00 プロローグ  ……のあ、のあ、起きて。  声がする。それは落ち着いていて、綺麗な男性の声だった。目を開けると、暗闇の中、白い光がこちらを覗き込んでいた。 「……誰?」  ──私は、貴方。 貴方は、私。 大丈夫、貴方なら、今度こそ。 だから恐れないで、目を開けて。 貴方は、─────── 戻る 次へ Up

  • ヴァルミナ旧教会 | 楽園都市管理室

    < Back ヴァルミナ旧教会 ルノリア神聖都市国家の中央に本拠地がある世界的宗教【ヴァルミナ教】。 実際に救世主イマヌエル・クライストが生きていた時代から続くとされるのが旧教。教祖であり現トップはノエル・ヴァレンツァ。 赤い目を持つ【悪魔】への深刻な差別、迫害を生んだ宗教。 現在は以前ほど過激では無いものの、それでも新教と比べるとかなり時代錯誤な教えを掲げている。 全ての天の上、至高天に坐すとされる創世神ヴァル、救世主であり神の子クライスト、聖女マリア他諸聖人が信仰の対象。 唯一の神を信仰し、神を、人を愛する者が主による救いを得られるとされる。 【哀れな魂に救済を。罪深き汝らにも、等しく注ぐ神の愛を】 Previous Next

  • episode:01 序章 | 楽園都市管理室

    戻る episode:01 序章  立て付けの悪い扉を、強風が叩き付ける音で目を覚ます。ただでさえ寝ぼけ眼な目は暗闇に慣れるまでに軽く時間を要したが、徐々に露出した空調設備や、もはやなんの為のものであったのかも素人目には分からない上から垂れる千切れた黒い無機質なコード等、あまり綺麗とは言えない部屋の全容がその輪郭を朧気に主張し始めた。チラシか広告か、印刷された文字までは見えないが何かが大きく宣伝されたような紙やボコボコに変形したダンボールが所々に散乱している。見失ったスマホを探すために伸ばされた掌を刺す、ピリッとした電撃のような痛みで、彼女 ──藍葉(あいば) のあは、ようやく意識をその場に戻した。 「いった……、……は、何、どこ、ここ……」  ぷっくりと赤く小さな球体を作り出す掌を、ポケットティッシュで軽く抑え辺りを見渡した。何か、夢を見ていたような気がする。しかしそれを思い出すことはついぞ叶わず、何かモヤのようなものが、のあの胸につっかえていた。暫く後、じわりと赤を広げたそれと、中身を使い果たしその役目を終えた空袋をポケットに突っ込み、立ち上がって電気のスイッチを探した。壁を頼りに、辺りをべたべたと触りながら進む。何分経ったか、コンクリート造りのざらりとした感覚とは違うツルツルとした凹凸を見付け安堵し、それと同時に今更『ここの電気が機能するか分からない』という現実に気が付いた。 「うう、多分だけどめちゃくちゃボロそうなんだよなあここ……神様、頼んだ!!」  望み薄な状況ではあるが、粗雑な神頼みをした勢いに任せて、そのスイッチを押した。数秒の沈黙を挟み、絶望と同時にのあが神の存在を否定しかけた頃、ヴヴヴ、という音を立て数回の点滅の後、部屋に明かりが点った。視界が鮮明になったことで目に入った、割れた注射器のガラス片。先程掌を刺した痛みは、恐らくそれであったのだろうことが判明した。 「え待って、なんかこれやばい薬品とか……!?」    そう、今更ながらに慌てて血を押し出すのあだったが、辺りに置かれている物の様子からすると、不幸中の幸いと言えるだろうか、未使用品が落ちて割れただけ、という説が濃厚だった。視線を動かし、先程の散らばった広告を見遣った。のあの足元に落ちているそれは、大きく『神は信じる者を救って下さいます!』と書かれており、下に何か神秘的なイラストと共に簡単に教えが纏められていた。付近には他にも書類が落ちているが、どれも『大司教 柊 真尋(ひいらぎ まひろ)様 特別講演の御案内』『神による魂の救済』などと、宗教じみた文字列が多々伺える。先程暗闇の中でのあがゴミだと認識したそれは、恐らく初めは綺麗にダンボールの中に収められていたのだろう。あちらこちらに転がる変形した茶色の箱の中からは、同様の内容の書類が顔をのぞかせている。そんな中、理科実験室で見るようなフラスコや古い顕微鏡、ピンセット等の資材が置かれている棚の下に、見覚えのある黒の板が落ちているのが見えた。 「あ、私のスマホ……。……なんでこんな所に……?」  それは、明らかにのあがいた場所からかけ離れた位置に落ちていた。電源を入れる。多少画面が割れてはいるものの、まだ見られる範囲だった。15%という絶望的な電池残量を視界から追い出し、時刻を見た。2014年の12月29日、午前1時30分。午前とは言え、早朝と言うよりは深夜という言葉の方が随分と似合う時刻だ。国をあげて唯一人の生誕を祝った煌びやかな一大イベントが終わりを告げ ──とはいえ1月過ぎまでは祝い続けているようではあるのだが ──賑わいも当日、25日よりは恐らく落ち着いてきた頃だろう。流石は信者数が世界人口の九割以上を誇る宗教“ヴァルミナ教”だけあって、当日は大学も休みだった為、引きこもり気質ののあは一日中部屋で堕落した生活を……送りたかった所だが、何を隠そう、のあも一信者である。クリスマスは友人と共に教会で大半を過ごした。そして翌日も、その友人と二人で過ごす予定だった。彼女が、どこかに消えてしまうまで。  ──先程の一文には少し些細な、しかし意味合いとしては随分と変わってくるひとつの訂正が必要である。のあも一信者で“あった”。そうして、次また一信者に戻る為には、この拭いきれない不信感をどうにかしてしまう必要があった。 一部の間で暗に囁かれている、『殺人宗教』という噂の真実についてを、知る必要が。 戻る 次へ Up

  • 終末世界の幸福論 | 楽園都市管理室

    < Back この青空の向こう側へ、貴方と。 戦争を。 力をつけなさい。人ならざるものとも戦える力を。 我が国の為に争いなさい、妖精の民よ。 終末なんて、訪れさせはしない。 苦しみと災いの果てにある、最上級の幸福を。 だって、それこそが妖精の御伽話。 幸福で、色鮮やかで、穏やかな、永遠に幼き純粋な世界。 ──その為だというのに、ああ、今日も、愛おしい青空の下は酷く無機質で、噎せるほどに鉄臭い。 流血/異形/差別/欠損/戦争表現 有 Story レーヴェリア王国軍に所属する少女、アリス。 女王陛下と軍神の創り上げた兵器として命令のままに生きてきた彼女には、しかし時折秘密裏に会う一人の少年がいた。彼の前では、人として、子供として、幼いながらに未来の夢を語った。 二股の尾に、獣の耳、鋭利な歯。 「いつかさぁ、このニセモンの青空の外、オレと一緒にいこーぜ!クソみてーにゃ世界捨ててさ、そしたらさ、今度はオレがぜってーアリスの事守るから。約束にゃあ」 そう手を差し伸べる彼、彼女のたった一つの秘密は、人でも妖精でもない、強大な力を持つ魔物“リリス”、ネロという少年だった。 第五位【女王】ヴェリヴァエル 終末世界の幸福論 ファンタジー ルート分岐/無し

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